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ひとりウェーブ

第1章 ゲーム屋バイトと俺(ひとりウェーブ学生編)

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第1章 ゲーム屋バイトと俺(ひとりウェーブ学生編)

2002年の冬。

一人暮らしという名の“ちいさな王国”を手に入れた俺は、家賃と食費の現実に殴られ、早々にアルバイトを探すことになった。

ちょうどその時、最寄りの駅から徒歩3分の「ゲームショップ」でアルバイトの張り紙を見つけた。

——ゲームショップ・スタッフ募集。

その瞬間、未来の俺が見えた。
新品ダンボールを開封しながら「このソフト、名作なんすよねぇ」と語り合うバイト仲間。
休憩室では攻略本を囲み、最新タイトルの情報交換。
閉店後には、店員同士で対戦会。
ゲームが“好き”であることが、初めて肯定される世界。

「これはもう、運命やろ」

そう思って面接に行った。

結果、採用。
そして、俺の人生初の“理想と現実のギャップ地獄”が始まった。

「ゲーム屋◯◯」
外観はくたびれた看板だけど、扉を開くとそこは天国だった。
PS2、ゲームキューブ、ドリームキャスト、ワンダースワン。
棚いっぱいのパッケージ。
試遊台から流れるBGM。
インクの匂いが混じった、あの“ゲーム屋の匂い”。

胸の奥が、じんわり熱くなった。

しかしそこで働くスタッフはというと——

女子大生の先輩A:「ゲーム?あー…全然やらへん(笑)」
男子大学生の先輩B:「俺、家にゲーム機ない」
爺(社長のコネで存在するバイト):「ゲームなんか子どもの遊びや。やっとれるか」

……ん?

え、ここゲーム屋ですよね?

いや、間違いなくゲーム屋なんだけど、どうも俺は“異物”らしい。
俺だけがテンション高くて、俺だけが棚の商品名を全部言えて、俺だけが発売日を暗記している。

新作タイトルの入荷日、神宮寺三郎の新作、ロマサガ3、スパロボの再生産—
俺の脳内スタートメニューは常に更新されていた。

だが、誰ひとり付いてこない。

昼休憩で「最近やってるゲーム何かあります?」って聞いたら
「え〜、あんまり…」で会話終了。

孤立、完成。

でも仕事は楽しかった。
レジに立って棚を見るだけでテンションが上がる。
小学生がお小遣い握りしめてカセット選んでる横顔なんて、涙ぐむほど美しい。
俺はちゃんと幸せだった。

ただ、閉店後のバックルームの空気だけは別だった。

爺の存在だ。

仕事がデキるタイプではないのにプライドは富士山。
若者が嫌いで、笑顔が嫌いで、態度は常に“怒っている誰かの代弁者”。
俺がレジの釣り銭を間違えると怒鳴る。
間違えてなくても怒鳴る。
女子大生がミスしても俺に怒鳴る。

たぶん、俺の“楽しそうな態度”が気に入らなかったんだろう。

「バイトの分際で調子に乗るな」
そんな空気を全身で投げつけてくる。

ある日、とうとう限界が来た。
いつものように爺に怒鳴られ、人格を否定され、それに対して俺は「いや〜すいませんウヘヘ」と笑ってやり過ごした。
笑った自分が、一番ムカついた。

その日の帰り道、冬の空気の中を歩きながら思った。

——俺はなんで、楽しむために始めた場所で、こんな顔してんだろう。

翌日のシフト。
爺と俺だけ。

最悪の組み合わせ。

開店から30分後、ついに衝突。

爺「お前ほんまに頭悪いな。辞めろや」
俺「……そうですね」

俺はエプロンを外し、バックルームを出た。
無言で自動ドアを抜けて、そのまま帰った。
勢いで携帯のカメラを取り出して、店の看板を写真に撮った。
(どんな精神状態やねん当時の俺)

あれが——ゲーム屋での最終勤務だった。

辞めた直後の心は、矛盾だらけだった。

爺から解放された安堵。
働かなくていいという甘い開放感。
けれど、あの棚に触れられなくなる寂しさも確かにあった。

理想の世界に入りたくて飛び込んだのに、
現実の人間関係ひとつであっさり崩れるほど、
俺の「夢」は脆かったのかもしれない。

ただ——

ゲームに囲まれて働けた数ヶ月は、紛れもなく俺の宝物だった。

あの日の店内の匂い、
新品のパッケージの光、
レジ越しに見た子どもの笑顔——
全部まだ覚えてる。

そして、辞めた日の夜。
部屋に戻って電気をつけた瞬間、思った。

俺にはまだ、“家でゲームができる人生”が残っている。

それだけで救われた。

——これが、ひとりウェーブ、最初の波だった。

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